2.3.学校

2/4
前へ
/171ページ
次へ
 寄り道さえしなければ配給所まではそれほど時間はかからない。  居住区の他の建物とは明らかに異なった作りの建物に、少年は最近よく寄り道している。  おじさんはその建物のことを学校と言っていた。  世界の中心へと真っ直ぐに伸びる大きい通りから脇に逸れる。高い廃墟に挟まれた細い路地を進む。建物と建物を結ぶ橋の下をいくつかくぐり抜けると、ぽっかりと開けた場所がある。おじさんが学校と呼ぶ、背の低い建物は、その開けた場所の一角に建っている。  学校の中はほとんど鍵がかかっていない。他の建物と同様に、鍵のかかっていない部屋のほとんどには何もない。空っぽだ。  少年は空っぽの部屋には目もくれずに建物の奥をめざす。3階の突き当たりにある鍵のかかった部屋が、少年のめざす場所だった  その部屋には本棚があった。本棚には少年があちこちから少しずつ集めてきた本が並んでいる。  少年はその中の一冊を取り出し、床に座り、膝の上でその本を開いた。  その本には少年より少し年上に見える男たちが集まっている写真ばかりが載っていた。文字はほとんど書かれていない。数字と文字が記号のように並んでいるだけだ。意味のある文章はその本の中には見当たらない。  その本を見つけたのはおじさんからもらった鍵を使ってあちこちを探索し始めてすぐのことだ。前から気になっていた鍵のかかった部屋を片っ端から開けていた少年は、床に落ちていたその本を見つけた。おじさんの部屋でも図書館でもない場所にある本。おじさんからその存在は聞いていた。実際に見つけるのは初めてだった。  初めてひとりで見つけたその本を、少年はこの本棚に最初に入れた。学校は本を見つける前から少年のお気に入りの場所だった。それから少年は本を見つけるたびにこの本棚に並べていった。  まだ棚の一段も埋まっていない。どの本も何度も何度も読み返していた。特に最初に見つけたこの本は、どのページにどんな写真が載っているのか覚えてしまうほど見返していた。  男たちは誰も彼もが驚くほど似ていた。同じ服を着ている写真では、ひとりひとりの区別がつかないほどだ。髪の毛が特徴的だった。居住区の男たちは肩ぐらいまで、もしくは、それ以上の長さに髪を伸ばし、気が向いた時に包丁を使って自分でばっさりと切る。ところが、写真の男たちは耳が出るぐらいまでの長さに短く髪を整えている。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加