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おじさんは自分の声で目を醒ました。
何度も見た悪夢だ。見る度に命が削られるような思いに捕らわれ、生きたまま身を捻じ切られるような苦痛に苛まれる。激痛がピークに達した瞬間、完全な闇の中に一気に沈む。そのまま意識が消えていく。叫ぶ。声は出ない。必死で叫ぶ。声の出ない喉を振り絞り、叫ぶ。息を吐き切るまで。
目を醒ます。
体は汗にまみれ、噛み締めた歯が痛んだ。
窓の外は暗い。
この世界は夜だ。
夜には寝て朝には起き、昼間には無為に時間を潰し、たまに闘技大会や夜伽の儀式を覗き、新しい夜が来ればまた眠る。
それが居住区の男たちの暮らしだった。
おじさんは無為に過ごす時間を持っていなかった。本を読み、本を探し、居住区の中を歩き回って過去の痕跡を確かめ、望遠鏡の材料を見つけ出し、時には使える貴重な道具をかき集め、望遠鏡のためのレンズを磨き、文字を教え、気が向けば少年とともに宮殿の図書館に向かう。おじさんの一日は居住区の男たちのそれとは、まったくの別物だった。
居住区の男たちと自分の何が違うのか、おじさん自身もよくわかっていなかった。同じような年恰好の男もいないわけではない。が、概ね居住区の男たちはおじさんよりも早く年を取っていく。長く生きていると、その違いがはっきりと分かる。
どれだけ長く生きているのか、おじさんは記録を取るということをしていなかった。何度も記録を残そうとはしていた。その度にうまくいかない。大事なことを、どうしても残せない。やがて記録を残すことは諦めた。
自分はどれぐらい生き続けているのか。若かったはずの居住区の男たちは見る見る成長し、年老い、やがておじさんを追い越して衰え、死んでいく。まれに訪れる配給所で見かけたはずの顔ぶれが、いつの間にか入れ替わってしまう。いつまで経っても衰え始めた見かけのままの自分を置いて、誰も彼もが死んでいく。
なぜ、男たちはあんなに早く老いていくのか。
自分はその理由を知っているのではないか。
思い出そうとしても何も出てこない。考えれば考えるほど、考えが散らばる。何も考えられなくなる。
悪夢の中では、過去の記憶が重要な役割を担っていた。
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