2.1.悪夢

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 青白い光に包まれた通路の中を歩き続けていた。延々と続く通路はどこから始まってどこまで通じているのか、自分がどこを目指しているのか、分からないまま歩き続ける。自分と同じような青い服を着た男たちが周りを囲んでいる。服が青いのではない、白い服が青い光に染まって見えている。無言で歩き続ける。どこからか大きな音が、周期的に高さを変えながら聞こえてくる。音が近づくに連れて光も強さを変化させてくる。徐々に明るくなり暗くなり、やがて完全な闇の瞬間と、何もかもが光に包まれる純白の瞬間とがやってくる。音は耐えられないほどの大きさになっていた。耳を押さえようと手を上げる。上げようとした両手を周りの男たちが一斉に掴む。手は恐ろしいほどの力で押さえつけられる。たちまち周囲の男たちの姿が消える。手を掴む力だけを感じる。振りほどこうとしても動かせない。身体の向きを変えることもままならぬまま、せめて助けを求めるために叫ぼうと息を吐くが声は出ない。どれだけ空気を吐き出しても声は出ない。遠くなる意識の中でさらに振り絞るように息を吐き出す。  ようやく声が出た。  その瞬間に目を醒ます。  今日もまったく同じ夢だ。  隣で眠る少年の横顔に窓からの淡い光が当たっていた。  一人で眠るのが淋しいのはおじさんのほうだ。いつまで経っても誰かの寝息を聞いていないと眠られない。子どもたちが成長し巣立っていく度に、新しい子どもを捜しに行く。身の回りの世話をしてもらうためだけではない。文字を教えること、そして、こうして隣で寝てもらうこと。  文字を教えること、それはおじさんにとって半ば義務のようなものだった。教えることに理由はない。暮らしの一部だった。連れてきたその日から、本を開いてぶつぶつと読み続ける。特別に何かをやらせることもない。本を読むことがおじさんにとって文字を教えることだった。そうして何人もに文字を教え続けてきた。文字や本の世界に興味を持つ子どもはいる。いた。簡単な文字を読めるようになった子どももいた。  本を読めるようになったのは今の少年だけだ。
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