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ぶつぶつと言いながら机に向かって本を読むおじさんの傍らで、少年もテーブルに向かいぶつぶつと言いながら本を読んでいた。椅子に座った少年の足はもう床に届いている。細かった足もしっかりと伸びていた。
宮殿の鐘の音が聞こえてきた。昼を告げる音だ。少年は本が閉じないよう別の本を載せ、キッチンに向かう。食事に時間をかけるつもりはなかった。袋からパンをふたつ取り出す。部屋に戻ってひとつをおじさんに手渡す。おじさんは無言で受け取る。少年はひとくちかじってから椅子に座り、また本を読み始める。本を読む合間に、何度もパンを口に運ぶ。その度ごとにパンくずが落ちるのはおかまいなしだ。
「あれは読んだか」
「ああ、この前、図書館から持ってきた微生物の本? 読んだけど、おじさんは読まなくてもいいと思うよ。ボクは好きだし面白いと思ったけど、おじさんは興味ないでしょ」
「あの本で読むべきは微生物が歴史に与えた影響だ」
「なんだよ、読んでるんじゃないか」
「いつ読んでないと言った」
「わかったよ、歴史の話ね。ボクは歴史はよくわかんないけどね」
少年はページの端を大きく折ってから本を閉じ、立ち上がった。
「本の端を折るな。どこまで読んだかぐらいは覚えておけと言ってるじゃないか」
「いっぺんに色んな本読めって言われるからね、おじさんと違っていちいちそんなに覚えてられないよ。それより、もうパン以外は全然ないからさ、配給所に行ってくるよ」
「頼む」
おじさんはすぐに本の世界に戻った。
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