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 入学式と卒業式、それに建国記念式典と戦勝報告会に使用される大講堂は、進駐官養成高校では最も巨大な施設だった。中央にある円形のアリーナをぐるりととり囲んで2700人分の座席が擂鉢(すりばち)状にそびえ立っている。  講堂のなかは百万の蝉(せみ)でも放(はな)したようにわんわんとした唸(うな)りに満ちていた。奇妙な興奮が空気を震わせ、場内の空気はぴりぴりしてかすかに帯電しているようだ。  本選に出場する3組の生徒16名は通路に整列していた。思いおもいの服装をしている。タツオは宿敵のほうにちらりと目をやった。カザンは白の羽織(はおり)袴(はかま)に白足袋(しろたび)だった。踊りの稽古(けいこ)でもするような格好(かっこう)だ。準決勝で当たる佐竹(さたけ)宗八(そうはち)は戦場に出ていた頃のジャングル迷彩の戦闘服だった。足元は編み上げの軍靴である。タツオ自身は養成高校のカーキ色のジャージの上下である。
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