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真っ暗場所。そこに一点だけ光がともる。その光の発光源はテレビだった。テレビの明かりだけが灯された部屋、テレビの明かりの前にひとりの人物が座っている。
たった一つの光源では、その人物の表情を見分けることは難しく、はっきりとわかるのはその人物が男だと言うことぐらいだろう。
男性の視線はテレビから流れてくるニュースへと注がれていた。
『本日未明、会社員の毒島弘子さんの遺体が発見されました。
遺体の近くには遺書が遺されており、毒島さんの両目はくり貫かれた状態で発見された模様です。
遺書には次のように残されていました』
神妙な面もちの女性キャスターは手元の資料に目を落としながら、次に話す内容を確認している。
『『拝啓、私は疲れました、容姿に自信がもてませんでした、視線が恐ろしくて恐ろしくて仕方がありませんでした。人生に疲れました、さようなら私のこの眼ももういらない』
と言った内容がかかれており、最近起こっていた眼球強奪殺害事件について何らかの関係があるのではと警察関係者は話しています』
画面には毒島弘子さん、と言う名と共に、彼女の顔写真が画面全体に載せられる。
一重瞼は開いているかもわかりづらい、頬についた肉は少々弛んでおり、顔全体にある小さなシミは、彼女の年齢を感じさせる。特徴的なのは丸く大きな鼻、ボサボサの髪を一つにまとめた写真が全国に放送される。
悪意があるな
男はそう思いながら、ニュースから視線をはずさない。流れてくる情報を確認しながら、手元に収められているケースを眼前に持ってくる。
綺麗だ
「これで、また君が見られるね」
誰に言うでもなく、微笑んだ男は、ケースに収められた二つの眼球を愛おしそうに眺め、テレビの電源を消した。
明かりが消える瞬間、男の浮かべた表情は、泣いてるような、怒っているような、笑っているような、そんな曖昧な
狂った表情だった。
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