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―これはまだ、俺が小さかった頃の出来事。―
「魔力数値変動……まだ……、上昇しています……」
「馬鹿な……物体を魔力に分解しているのか、この速度で!」
白衣を着た男たちが額に汗を流しながら慌ただしく動いている。
彼らはただがむしゃらに今起こっている状況を理解しようとしていた。
「分子レベルにまで低下しています……!」
片手で持てるサイズの計測装置を覗きながら別の研究員が言った。
その空間にぽつんと一人、まだ10歳もいっていないような少年が唖然とした表情で大人達が理解しようとしている現象に視線を向けていた。
一生懸命理解するかのように、ただ一点を見つめている。
少年の目線の先には鮮やかに青く輝く一本の剣と、
その剣の柄を握り締めたままもがき苦しんでいる40代半ばの男が居た。
他の大人達と同じ白衣を身に纏っている彼の肉体はぼんやりと青い光に包まれていた。
剣が放っている光と同じ、青い青い綺麗な光。
少年はそれがとても綺麗に思えたが同時に何故か悲しくも思えた。
光は儚くて少しでも触れたら壊れてしまいそうな、そんな印象を与えていた。
事実、この光に包まれた男は今とても“脆い”状態だった。
「ディズ!“神剣”を離すんだ!!」
誰かが、ハッと気付いた表情で“神剣”を掴んでいる男、ディズに剣を離すように言葉をかけた。
しかしディズがそれを行っていない訳ではなく、行えないということにすぐに気が付き顔をしかめる。
その後人差し指を口の前に持っていきひたすらに思考を巡らせた。
どうしようもない、絶望的な状況。
そんな空気が漂う中で少年は口を開く。
酸素を吐き出すと同時に舌を動かして、音を発した。
言い慣れた、言葉。
「おとう、さん?」
ディズ・ラウバーン。
神剣の光を纏う男の名。
この少年の育ての親だ。
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