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「文庫本くん、俺でよければ初めての栞の感触を存分に堪能してくれ」
栞の言葉に感激した文庫本が、ありがとうございますと言って、きゅっと栞を挟むページに力を入れた。
「――っふ、ん」
「栞さん? どうかしましたか?」
栞が文庫本の間で吐息混じりの声をあげた。
「い、いや、何でもない。気にしないで……それより君はいったいどんな物語の本なんだ?」
「ああ、えっと……恋愛、かな?」
「恋愛か。恋愛ものは割りと一気に読まれてしまうことが多くて、実は俺もあまり挟まった経験がないんだ」
「そうなんですね」
「うん。最近は推理ものとかミステリーが多かったかな」
栞が実は恋愛ものの経験が少ないのだと知った文庫本が嬉しそうな顔を見せた。
「どんなストーリーなのか教えてくれるか?」
「はい。えっと、主人公の二人は幼馴染みなんです」
「幼馴染みものか」
「攻の方がずっと受のことが好きだったんですが、告白することで友情関係が壊れてしまうのが怖くて告白できなくて……」
攻とか受とかよくわからない単語が出てきたが、一生懸命な文庫本の話の腰を折るのもどうかと思い、とりあえず攻とか受というのは登場人物のことだと栞は理解することにした。
「……でも、別の所から受のことを狙っている存在に気づいた攻が思いきって受に自分の気持ちを伝えるんです」
「なるほど。ハッピーエンドな話なんだな」
「はい。僕的にはやっとお互いの気持ちが通いあって初めての絡みの部分が凄く好きなんです」
絡み? 少女向けのライトノベルで絡み?
この文庫本は表紙こそ少女向けだが、実は少し年齢層が高めの女性向けなのかもしれないと栞は思った。
「――ん?」
気のせいか、栞を挟むページがさっきより固く閉じられているような気がする。それに、何となく熱を持っているようだ。
「文庫本くん?」
「す、すみません……栞さん、話の内容を思い出していたら……あの、僕、我慢できなくなってしまいました」
真っ赤な顔をした文庫本が、栞を挟んだページを擦り合わせるようにして栞のつるりとした体を揉み込んでくる。
「あ……っ、ちょ、まって」
「栞さん、栞さん」
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