第1章 シンデレラ

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まだアシスタントだった俺。 その店の客として、時々来店してたのが明美で。 ずいぶんとお姉さんだと気付いてた。 だからそんなに話などできては居なくて。 美容師のアシスタントと言えば夢も希望もあるように思われるかもしれないが、 実際は手取りで10万ちょっとの給料。 とてもふつうに食っていけるようなレベルじゃない。 その上、店が終わってからは技術の練習とかで自由な時間もなければ、 気持ちに余裕のひとつさえもてる筈もなく…… 疲れ果ててた。 専門の学校を出ると就職率がいいと聞いてこの道を選んだ。 元々、そう言うことにも興味があったし、センスもいいと自分で思ってたし。 だけど、 間違えたかな…… その日。 閉店間際、滑り込みでカットにやってきた明美はずいぶんと疲れた様子で…… なにを喋ることなく、 ただ唇を噛んで鏡の中の自分を睨んでたことをよく覚えてる。
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