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「おい、さっきのお客様、忘れ物だ。
追いかけて渡してこい。
今日は勉強会ないから、そのまま帰っていいぞ?」
そう言われて渡された手帳。
そう言えば座った時に持っていた。
だけど開くことなく鏡を睨んで。
客は明美だけで片づけも殆ど終わってたし、ずっと早く帰れてなかったから気遣いをしてくれたんだと思った。
お送りしたとき歩いていった方に走って、駅に着く間際に追いついた。
ベージュのスーツを探して追いかけて。
「お忘れ物です!」
髪の毛を気にしながら歩いていたからすぐにわかった。
背中から声を掛けたら驚いた顔で振り返った顔が、泣いてた……
髪の毛を気にしていたと思ったのは、
涙を隠そうと前髪をいじってたんだと、解って。
「あ、すみません。
うっかりしちゃって……」
差し出した手帳を受け取ってバッグにしまうと、
頭を下げた。
いえ……
それ以上、声を掛けられなくて、
何も気の利いたことが言えなかった。
2,3歩歩いて、振り返った彼女が、
「少し付き合っていただけません?」
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