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そう言うと又五郎は横に置いていた風呂敷包みを笹島へ差し出した。笹島が包まれていた風呂敷を解くと木箱に入った菓子折りであった。もちろん、ただの菓子折りではなく木箱の中には中敷きがあり二段になっている。笹島は中敷きの端をそっと持ち上げその下にある物を確かめた後、ほくそ笑みながら何事も無かったかのように木箱の蓋をして風呂敷を包み直し自分の横に置いた。そして何事も無かったかのようにまた辰巳屋と話を始めた。
「辰巳屋、例の物は藩の者に命じて今こちらに輸送中だ。それが届き次第・・・」
「心得ております。既に売り払い先も確保しております故、その時には今以上に笹島様にはお喜び頂けるかと思います」
「楽しみにしておるぞ」
「昨年起きた江戸大火、我々にとってはまたとない稼ぎ時ですからなあ」
「ふふっ、辰巳屋よ顔に出ておるぞ。全く悪い奴じゃ」
「これはこれは・・・、気をつけぬといけませんな」
二人はお互いに悪どさを滲ませた不気味な笑みを浮かべながら酒を飲み交わしていた。少しの間談笑した後、又五郎が用を足すと言って席を外す。暫くして女を連れて戻って来た。又五郎は女に廊下で待つように指示をして自らだけが恐縮そうに笹島の待つ部屋に入る。
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