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そう言われ、シヅノは自分の後ろに置かれた風呂敷包みを抱え部屋の敷居を跨ぐと又五郎の横に座って手を突き深々と頭を垂れて笹島に自己紹介した。
「シヅノと申します」
「苦しゅうない。面を上げて顔を見せよ」
「はい」
そう言われシヅノはゆっくりと顔を上げる。それはハチが昼間すれ違った又五郎と一緒にいた女であった。長い黒髪に整った顔で美女と言うに申し分なく笹島は一瞬で気に入った。満足そうな顔をしている笹島に又五郎が念を押すかのように尋ねる。
「如何ですか。笹島様」
又五郎にそう尋ねられた笹島は一瞬我に返る。
「おっ、おう。いやあ何とも美しい」
「お気に召して頂けましたでしょうか」
「ああ。無粋なこと尋ねるでない。辰巳屋よ」
「はははっ、これはこれは」
「シヅノと申したな。さあ、こっちへ来て酌をして来れ」
「シヅノ、笹島様があのように申しておられる。さあ、近くに行ってお酌をしなさい」
又五郎に促されシヅノは笹島の傍へ行き酌を始めた。笹島は横目でシヅノの顔をのぞき込むように見ながら酌を受けると注がれた酒を一気に飲み干した。
「うん、うまい。美人に酌をしてもらった酒はやはり格別じゃ」
笹島は満面の笑みを浮かべながら大層喜んだ。その様子を見て又五郎がシヅノにどんどん酌をするように促す。そのやりとりを聞いていた笹島も上機嫌でシヅノの酌を受け三杯、四杯と酒を飲み干すと益々上機嫌になった。
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