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「辰巳屋、今日の酒は本当にうまいぞ」
そう言われた又五郎は笑みを浮かべながら答える。
「笹島様にお喜び頂けて良かったのう、シヅノ」
又五郎にそう言われたシヅノは黙って笹島の顔を見ながら笑みを浮かべて答えた。その笑顔を見た笹島は何とも言えない喜んだ表情を見せ又五郎に言った。
「辰巳屋、酒じゃ、酒が足らん。どんどん持って来い」
「これはこれは気づきませんで。すぐに運ばせます」
「それと辰巳屋よ。お主、この後何か用事があると申しておったのではなかったかな」
笹島はそう言って又五郎と目を合わせる。もちろん又五郎にこの後用事などはない。それは笹島が又五郎を返しシヅノと二人になるための方便だ。目を合わせながら笹島にそう言われた又五郎もそのすべてを察し話を合わせる。
「そうでした。これは笹島様申し訳ございません。それでは、私は酒を運ぶように申し伝え一足先に失礼させて頂きます」
「うん、お主も多忙の身ゆえ儂としてもこれ以上引き止めておくのは心苦しい」
「いつもながら笹島様のお心遣いには恐れ入ります」
そう言うと又五郎は笹島に深々と頭を下げた。そして、部屋を後にする前にシヅノに一言申し伝えた。
「シヅノ、私は一足先に失礼するがくれぐれも笹島様に失礼のないように頼みますよ」
そう言われたシヅノは又五郎を見つめながら黙って小さく頷いた。そして又五郎は静かに部屋を後にした。
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