第五章 羽織物に潜む悪魔

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「儂の求めに応じられんのか?」 笹島の圧力とも取れるその問いかけにシヅノは目を細目ながら静かに首を横に振る。 「いいえ、ただ先に笹島様にお渡ししたい物がありますの」 そう言われた笹島が思わず問い返す。 「儂に渡したい物?」 「はい」 そう言うとシヅノは抱き寄せられていた体を起こして自分の傍に置いていた風呂敷包みを手に取りそっと笹島に差し出した。包みを受け取った笹島はシヅノを見つめながら話かける。 「これを儂にくれるのか」 「はい」 そう言うと笹島は風呂敷包みを開けると笹島は一瞬訝しい顔をした。そこには毛皮の羽織物が入っていた。 「これは?」 「私の出のところでは冬の寒さを凌ぐため熊の毛皮で作ったこの羽織物を着ておりますの」 「熊の毛皮をか?」 「ええ、松前の方の寒さは江戸とは比べ物になりませんでしょ」 「確かに」 「特に私の居たところは松前のお城よりさらに内地でしたから、冬の寒さを凌ぐためこうして熊の毛皮を鞣し羽織物にして着ておりましたの」 「ほう。生活の知恵か」 「はい。とても暖かいのですよ」
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