第五章 羽織物に潜む悪魔

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 酉の刻 料亭内の座敷    人払いがされた部屋で男が二人、不敵な笑みを浮かべながら話をしていた。一人は松前藩の次席家老笹島久兵衛、昨年起きた江戸の大火で松前藩の藩邸が類焼したため、その再興を命じられて江戸に赴いていた。そして、もう一人は材木問屋の主人で辰巳又五郎、辰巳屋は新興の材木問屋で江戸大火で藩邸を焼失した松前藩と結び付きを強め、それを足掛かりに江戸での勢力拡大を目論んでいた。 そしてこの辰巳又五郎こそ、昼間に町中でハチがすれ違った男であった。 「いやあそれに致しましても、いつも笹島様のご尽力には恐れ入ります」 「辰巳屋よ。儂もそなたのおかげでここまでこれた。これからも共に協力して行こうではないか」 「ええっ、もちろんのこと。笹島様にはこれからも益々ご活躍頂き、松前藩の江戸藩邸ご再興を必ずや成し遂げて頂きたく思います。そして、笹島様が江戸藩邸をご再興された後は・・・」 「辰巳屋よ。皆まで言わずとも良い。どこで誰に聞かれておるか分からぬではないか」 「ははっ、これは私としたことが、つい気持ちがはやりまして申し訳ございません」 「ふふっ、ところで辰巳屋よ。例の物は如何した」 「はい、もちろんこちらにご用意致しております」
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