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「くぅ……」
傷口を押さえながら、宛もなく歩く中年男性。
警察に被害届を出しても金が戻ってくる確率など半分にも満たない。
あらゆる者に頭を下げ、あらゆる物を売りさばいて ようやく手に入れた金だったというのに――奪われてしまった。
何もかも終わってしまった。
「すまない…………すまない……愛子(あいこ)……!」
涙を流しながら男性は膝をつき、愛する妻へと謝罪の言葉を口にする。
その時――
男性の目の前に、茶色い何かがポトリと落ちてきた。
「こ、これは……!?」
まさかと思い、男性が落ちてきた何かを手に取ると、ソレは先程奪われた財布だった。
急いで中身を確認すると、紙幣は1枚たりとも減っておらず奪われた時の状態そのままだった。
──どうして?
──理由は解らないが、金は戻ってきた。
──これで妻は助かる。
──きっと、これは神助けだ。
「……ありがとうございます」
空を見上げて感謝の言葉を呟く男性。
そんな彼の様子を、死神がビルの上から見つめていた――
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