No salvation ②

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ふと心配になって、隣りの様子をうかがってみれば、案の定、固く唇を噛みしめ震えをこらえるアンの姿がある。 西パプアでの一件以来、アンは暴力にひどく怯えるようになった。 何年経っても心の傷が癒えないのは、二人とも同じ。 しかしアンの傷の方が、私とは比べ物にならないほど深い。 こっそりとエプロンの端を引っ張て気遣うと、黒い瞳がこちらを向き、じわりと潤んだ。 抱きしめて落ち着かせてやりたいのはやまやまだけれど、今はただ事のなりゆきを見守るしかない。
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