第十三話 第二の故郷

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添えた手にもう一方の片手を重ねる。 「私、ちゃんと貴方と向き合うから。だから、背中の傷やいろんなあざを見ても、怖がらないで」 重ねられた手が微かに震えている。昔の過ちやトラウマを認めた上で、淳希の願いを叶えようとしている。だから、拒絶されると逆につらいのだ。 「見てくれというのなら、頭の先から足の先まで見るさ。傷跡を見せるお前の勇気を怖がったりはしない」 「だったら、大丈夫」 「でも万が一、止めてほしいときはちゃんと言え。夫婦に遠慮はいらない」 「うん」 「じゃあ、先約しておく。麺が冷めて伸びたらせっかくの料理が台なしだしね」 「ふふふ。そうね」 手を離し、張り詰めた空気が一気に和らぐ。 「まさか、貴方とこんな話をするとは夢にも思わなかった」 「まだ実感が湧かないの?」 パスタを頬張りながら神妙な顔つきで頷く。 「指輪を貰った時って、デュエルの前だったし、目の前にあるのは断崖絶壁というイメージしかなかった。だから、結婚なんて頭になかった」 デュエルで死んでもおかしくないし、実際死の直前の状態まであった。 「意識が亡くなる前に、貴方の顔が見えたからひょっとしたら幻じゃないかなって。だって、はじめが手配したなんて知らなかったし」 気の遠くなるような鈍痛に苛まれていた筈だが、彼女の顔はとても安らかだった。 「そしたら、馬鹿野郎って。貴方泣きそうな顔して言うんだもの。これじゃあ死ぬに死に切れないじゃないの」 「だって、自分の状態そっちのけで、デュエルに勝ったなんて笑顔で言うから馬鹿なんじゃないかと思ったの」 むくれる淳希が可愛くて、思わず笑ってしまう。 「だって、もう何も私達を邪魔するものがなくなったし、びくびく怯える必要がなくなったもの。何もかも解放されて安心しちゃったもの」 幸せを阻む手枷から漸く解放されて嬉しくない筈がない。 「けれど、死なれたらたまらない」 「だから、貴方が私を生かしたのでしょ?」 「当然だ。だからあんな無茶も二度とするな」 「無茶する必要はなくなったから、もうしないよ」 ニッコリと笑って頷く遥の眼差しは嘘をついていなかった。 「さてと、ご飯を食べ終えたら一仕事しなきゃね」 いつの間にかパスタを食べ終えたのか、自分の分だけシンクに食器を運び、洗いはじめる遥。
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