第十三話 第二の故郷

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心臓を縫い付けた糸が、完全に消えるまで6ヶ月の歳月を要した。その間、淳希は約束通り、できるだけ遥のそばにいてやった。もちろん、ウイルスの研究もしながらの話だが。 そして今日、漸く退院を許されたのだ。個室で病院服から普段着に着替える。そっと左胸を撫でてみたが、淳希の言うとおり違和感はない。ただ少しだけ紅い痣が残っただけだ。 すると、淳希より前にノエルがやってきた。 「退院おめでとう!待ち切れなくて来ちゃった」 はじめが退院して、約束通り旅に出かけていた。だが、今日、遥が退院すると聞いていてもたってもいられずにトニーズに駆け付けたのだ。 「しばらく見ないうちに随分と大きくなったんじゃない?」 背丈がまた伸び、後から遅れてくるはじめと並んでも変わらないぐらい成長しているノエルを見て、長い間入院していたのだと改めて実感する。 「全く、お前は無茶ばかりして」 「あんたが言う台詞じゃないわよ」 「それも、そうだな」 くすくすと笑い出すはじめと遥。ただ1つだけ気になる点がある。 「そういえば、あの人は?」 「精神病院に連れていかれたよ。今までの悪行もすべて忘れてしまったらしくて。本当、都合のいいところだけ忘れられた」 「本当。でもデーモンの能力は二度と使えないんだし、これで脅かす存在もないもんね」 「最後まで、親不孝な息子だったよ俺は」 一度、病院にいるメイに謁見したそうだが、死んだとばかり信じていたはじめが生きていたことを目の当たりにし、悪霊扱いしてきたのだ。そういった猜疑心の強い性格はもともとなのだ。 「でも、これから正式にファウストとして生きる決心がついた」 「そう。なら、よかった」 にっこりと微笑む遥。 「あと、いつお前は結婚するんだ」 「え?」 「プロポーズ受けただろ」 「うん。でも、しばらくは安静にしてなきゃ駄目だから」 「そうか。見に行くことは出来ないけど」 はじめの発言に、不服なのかすぐにむくれるノエル。 「えー!!遥さんのドレス姿見たいのにー」 「馬鹿。淳希さんの中での俺はこいつの元カレなんだよ。気まずいだろ。本当は、彼氏にもなれなかったのにな」 「じゃあ、写真ぐらいは見せてよね?」 「カレンバーに帰ってきたら、見せてあげるから」
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