第十三話 第二の故郷

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頬を膨らませる仕種にも慣れたのか、目を細めて笑う遥。 「こういうの求めてたのよね」 淳希の額に前髪が掛かる。乱暴に払おうとする彼の手を握る。 「駄目よ。ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃない」 慣れた手つきで彼の前髪を整えてやる。 「本当、手のかかる旦那様ね」 「あの発言で見破れなかったんだな俺」 ティナミスとしてのファーストコンタクトで交わした会話を思い出す。 「線香で見破るとは、淳希さん以外できないわね」 「だってアクセサリーはないわ、蝶の痣がないんだもの。そこしか見破る鍵がなかったもの」 「大胆なことするわよね。本当に彼女とかいなかったの?」 微笑んではいるが、牽制を仕掛けてくる遥にため息をつく。 「もしも別の女性と付き合っていたら、張り手ものだし、懲りる」 「随分と慣れた手つきだったわよ?まさか、ずっとそんなことを想像していた?」 硬直する淳希。しかしすぐに冷静さを取り戻す。 「考えなかったわけじゃない。お前こそ抵抗しなかった」 「抵抗すれば、バレると思ったと言いたいけど、これにはトラウマがあって…」 「察しはつく。傷をえぐるようで申し訳ないが、もしお前と同じ年齢ならば今すぐ抱くだろう」 女性としてではなく、保護すべき相手だとばかり見ていたと思っていたが、実情は違う。 「何も露出なんてしてないよ」 「露出なんか関係ない。だが、同時に無理強いはさせたくないという気持ちもあるんだ」 熱の篭った眼差しを見て、不意に、胸がドクンと高鳴る。 「あんな醜い体を見ても?」 「あぁ。もちろん結婚するまではしない。だけど、結婚したらいつかは抱かれて欲しい」 パスタを頬張っていたが、手を止める。彼の真摯な眼差しを見つめる。まさか自分相手にそんな視線で見つめられると思っていなかったのか、俯いてしまう。 「つなぎ止めておくため?私との子供が欲しいから?」 「どちらもだ。でも、お前がどうしても嫌なら結婚してもプラトニック関係を貫く覚悟は出来ている」 両手で握り拳を作る淳希の顔つきはいつになく険しい。最後まで遥の意見を尊重する気だ。彼の苦しい気持ちに寄り添うように、そっと手を添える遥。 「捧げてもいい。私に生きる勇気と希望をくれた貴方なら」 聖母のような眼差し。自分の切ない劣情を許すかのような微笑み。 「私も欲しいわ。貴方との子」 「…ありがとう」 「でも1つだけ約束して」
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