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「……君は、迂闊だな」
「え?」
くすくす笑った佐川が、私に言った。
「俺が既婚者だとは、思わなかったのか?」
言われて初めてその可能性が抜け落ちていたことを知る。
叔父たちと同年代の男、となれば……行き当たってもおかしくないことだ。けれど。
「……指輪を、していないじゃない」
「付けない主義の人もいるだろう」
「……」
そう言われると言葉に詰まる。
社内にもそういう男性がいなくもないからだ。
つまりは、彼は……?
「不倫でもいいから、ということかな?」
「っ、そんなこと……っ!」
あるはずがないわ。
妻の座にいる誰かがいてもいいだなんて、そんな風には到底思えない。
私は、この男にとって、唯一の存在になりたいのだから。
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