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心の中で、何かが折れた。
同時に、ふらりと体が揺れた。
目の前の佐川に手を伸ばしかけて、寸前のところで壁に方向転換する。
「っ、おい、どうしたんだ?」
「……」
「大丈夫か?」
問い掛ける彼の声は、焦っているようにも聞こえる。そして心配そうだ。
それが、癇に障る。
同情なんていらない。
優しくなんてされたくない。
今更、あなたが何を言ったって、私の飢えは満たされないもの。
きつく目をつぶって、胸の痛みと戦った。
手のひらから壁の冷たさが伝わってきて、私を芯から冷やしていくようだ。
「店に戻ろう、ソファで休めばいい」
そう言いながら、私の肩に触れる佐川。
私はその手を、思いきり振り払った。
もう何も言えない。言わない。
これ以上ここにいたくない。
彼の傍にはもう……いられない。
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