ナポリタンを顔面に投げつけられた。

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『相席いいですか?』 それが僕が彼女の声を聞いた最初の言葉だった。大学の食堂で、安いが味はあまりうまくない、日替わり定食を食っていた僕の隣で、彼女はそう言った。食堂は特に混雑しているわけではなかったけれど、断る理由もなくいいよと答えた。たぶん、相席を頼んできたのが男だったら無視したか、断っていただろうが、相手は女の子だったし、彼女の持つトレイには山盛りのナポリタンがあったから、なんとなく一人で食うのも寂しいだろうと思ったのだ。食堂のナポリタンは、味は悪くないがなにぶん量ほ多いため不人気で、僕の通う大学はほとんどがもやしのがり勉野郎ばかりだったので誰も頼まないのだ。 なんとなく相席なって、無言でムシャムシャするのも気まずいと彼女に話しかけてのがよかったんだろう。話題は適当にくだらないことをキャッチボールでもするように言葉を重ねていく。 その中でも印象的だったのが『ナポリタンとスパゲティってどう違うんだろうね』だった。その頃にはかなり親密な間柄になっていたように思える。出会って間もない頃はお互いよそよそしく敬語から大きく進歩した。 食堂、以外でも出会うことが多くなり、同じ講義の時間には同じ席で受ける回数も増えた。お昼時になれば、二人で山盛りのナポリタンをフォークでくるくる巻き巻きしながらつつく。僕はへたくそで、彼女はきれいにナポリタンの麺をフォークで巻き取って口元に運んでいく。その仕草が妙に色っぽくて、可愛らしいと思った頃から僕は彼女への好意に気がついた。そう、恋していたのだ。 だからといって劇的なエピソードがあるわけでもなく、彼女とのゆるゆるとした関係は続いていき、ふとした拍子、お酒を呑んで酔っ払ってしまい、雰囲気に押し流されて彼女とキスをして、一夜を共にしてしまったのが彼女との交際のスタートした。その日もナポリタンを食べた。それから半年、相変わらずゆるゆるとした関係だった僕らに亀裂が走る。 熱々のナポリタンが、僕の顔面に叩きつけられ、皿が落下して破片を飛ばす。彼女が何か叫んでるけれど、僕は熱さで言い返せない。過去回想というか、走馬灯のように彼女との出会いから現在までか流れていったけれど、それはドタンッと勢いよく扉を閉める音と共に断ち切られた。追いかけようとしたけれど、割れた皿の破片を踏んでしまい、身動きがとれないまま彼女との関係に終わりが来た。
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