ナポリタンを顔面に投げつけられた。

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全治一週間くらい、深く食い込んだ皿の破片の傷が治るまでかかった。その間は大袈裟と言いようないくらい包帯がまかれ歩くこともままならず、自宅のアパートでひきこもり生活を送っていた。いや、本当なら無理してでも大学に行けたが、彼女と出会うのが怖かった。僕はチキン野郎だった。 「電話もメールもなし、か」 もともと携帯をあまり使わない人だったから期待外れではないけれど、こうしていなくなってしまうと喪失感があった。ジグソーパズルから数個のピースを取ってしまったようなぱっくりとした開いた穴は塞がることなく僕の心にすきま風を送る。 僕からメールや電話をして連絡とるべきなんだろうけれど、その切り出しかたがどうにも気まずい。一方的に彼女が悪いようになっているけれど、僕も彼女にナポリタン投げつけられるまで、散々ひどいことを言った。 きっかけはとても些細な口喧嘩だった。いつもナポリタンばっかりじゃ飽きるよねと言った僕に、彼女がブチキレて、売り言葉に買い言葉でどんどんヒートアップしていった。日頃のストレスも溜まっていたんだろう。いつもは笑い話で適当に流すのにその日だけは違った。 別れたわけじゃない、喧嘩しただけ、そう、そうに違いないと言い訳するけれど、説得力はないが、僕は彼女のことがいまだに好きだ。そう胸をはっていえるのにごめんなさいの一言が言えないまま部屋の隅っこで携帯を片手にうずくまる。一週間、何も食べてない。何か食べたいけれど、傷口が痛んで出歩けないと言い訳してしまう。 もんもんとした気持ちを押し殺していると、片手に持った携帯がブルブルと振動する。僕は即座に通話ボタンを押して、興奮気味にもしもしと言った。 『なに、お前、一週間くらい大学休んでたと思ったらヤバいバイトでも始めたか?』 彼女ではなかった。電話してきた相手は高校生時代からの悪友である。彼とはいろんなイタズラをした。酒やタバコについて教えてくれたのも彼であるし、金欠の時にときバイトを斡旋してくれるのも彼である。 「してないし、ちょっといろいろあるんだよ」 『彼女に振られたか?』 「振られてない、喧嘩しただけ」 『喧嘩して部屋にひきこもりか? 情けない奴だな。とんだチキン野郎もいたもんだ』 足を怪我したんだよと言えば格好がつくかもしれないけれど、きっと彼は這ってでも来いよとか適当なことを言うだろう。わかりきっていたから言わない
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