ナポリタンを顔面に投げつけられた。

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『詳しくは聞かないが、俺から言わせると女と喧嘩するのは基本、負け戦だ。さっさと謝って仲直りしてしまえ、女って生き物は謝るって言葉はない。あいつらは自分の思い通りにいく結果しか見ていないからな』 妙に説得力のある言葉だった。 「どうしても言わなくちゃダメ?」 『あん? どういう意味よ』 「なんていうかさ、どういうふうに切り出していいかわかんないんだよね。ほら、ひどいこと言ってごめんねとか謝ってもさ」 足を怪我した負い目は残る。歩けないわけではないが、包帯はまだ取れていない彼女はこのことを知らないが、謝ればこのことも知る。知れば仲直りの邪魔になるのではないかと、こっそり思う。 『バカめ、話題なんてなんでもいいんだよ。大切なのは言葉や雰囲気じゃない、ようするに声をかけてくるかどうかだ。何もせずに立ち止まっていたら愛想尽かされるぞ』 何も聞かなくても彼にはわかるのか、それとも雰囲気とノリで押し切ろうとしているのか判断できない。 『ひとまず謝れ、そして彼女の話を聞いてやれ、余計な口出しはするな、基本、うなずいたり、合いの手を入れるだけにしろ。じゃーな』 とだけ言うと彼は一方的に通話を切った。言うだけ言ってスッキリしたんだろうが、相変わらず気分は重いが、愛想尽かされるのは嫌だったため、悩みに悩みぬいたメールの、一文。 ナポリタン、食べませんか? だった。返信を待っていたら眠くなりコックリコックリと船を漕いで寝てしまった。 コトンと皿の置かれる音として、目を覚ますとエプロン姿の彼女がムスッとした表情で僕を見えた。テーブルの上には山盛りのナポリタンが皿に盛られ、美味しそうな湯気と香りが漂ってきている。、 「お、おはよう。メール見てくれたんだ」 「無視しようかって思ったけれど、足を怪我してるって聞いたからさすがにやりすぎたなって、どういうふうに謝ればいいか迷ったから、ここまでいいかもって思って、食べたくないなら、別にいい」 「んん、食べるよ。お腹すいてるんだ」 「お腹すいてないんだったら食べたくない?」 「ひねくれた発想だね」  「だって、この前、ナポリタンばっかりじゃ飽きてくるって言うから、でも、私、これ以外、作れないし、作ってもきっと美味しくない」 ギュウッとフォークを握りしめ、彼女は絞り出すように言った。 「私もきっといつか飽きられるって思ったら不安になったのよ」
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