Act.1

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「今日は暑いから素麺が食べたい気分」 小声で呟く私もどこまでも愚かな女だなと思う。 けれど誠也の少しだけ嬉しそうな笑顔と、この身体が覚えてしまっている感覚が断るという選択をさせてくれない。 「了解」 そう言いながら、専務に気づかれないようにデスクの下で部屋の鍵を渡せと催促する誠也に、私は鞄からスペアキーを取り出した。 こうして毎回私から鍵を受け取るくせに、彼は私の部屋から帰る時に律儀に返して来るのだ。 そして私はそのたび痛感する。 誠也はもう、私を恋人としては見ていないんだってことを。 きっと今夜も彼はこの鍵を返して来るであろうことにどこかで虚しさを感じながらも、私は素早く差し出された手にスペアキーを載せた───。
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