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その指先は洞口に操られているようでもあり、一方で彼自身の意志にもとずくものでもあった
しかし彼は釦を押すまで何度も躊躇した
もし老婦人にあったら、こちらの都合がわからない老婦人になんと説明すればいいのだろうか
第一こんな時間に訪ねるのは失礼すぎる
相手が有力者だから事が大げさになるかもしれない
様々な思いが交錯したが、それでも彼は止めようとしなかった
衝動が強く彼を押したのである
遂に彼はドアフォンを押してしまった
遠くで音がしたが反応はなかった
『やはり、真夜中だからな、これで良かったのかもしれない』
彼は激しい緊張感の中で呼び鈴を押す事で、何故か衝動が収まった
彼は車に戻ろうとしてドアに手をかけた
しかしロックがかかってないのは明らかなのに、車のドアはびくともしなかった
彼は思った
『やはり、会わなきゃならないのか』
突然ドアフォンが通じた
あの老婦人の声ではなかった
住み込みの家政婦か
「どちら様でしょうか」
彼はインターフォンの室外機に近づいた。
インターフォンを通じて中の様子が外部に伝わって来た
家政婦らしき女性の声がした
「おかしいわね
何も返事がないわ」
老婦人の声が被った
「どうなさったの澄子さん」
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