見殺し

13/62
前へ
/709ページ
次へ
席についたものの誰も水を持って来ない どうやら食事と一緒に持ってくるようだ しかし給水機ぐらいはと彼は辺りを見回した 食堂の広さは五十坪程だから、すぐ目的の物を探す事が出来た 給水機は食券機の向かえ側の一番どん詰まりの雑誌棚の上に置かれていて、その となりの小さなテーブルに多数の安っぽいプラスチックのコップが置いてあった そのテーブルの下には紙に、御自由にお使い下さいと添え書きがしてあった 彼は席を立ってそちらへ歩き出した。 しかし突然こおりついたように止まった ある物が彼の目に突然飛び込んで来たからだ そのある物とはテレビである 正確に言うとテレビに映った一人の男である 彼が水を求めて給水機の方に行こうとするとカウンターの中のコックの一人が、リモコンでテレビのチャンネルを変えたのだ カウンターの横に吊り下げられている旧型の二十型テレビは、ブラウン管に突然ある番組を流した その番組はワイドショーで、流れていたのはあるコーナーだった そのコーナーは最近起きた事件を紹介してコメンテータに意見を聞く物だった 熱心に模型を使って事件を細かく説明する司会者の背後には識者と呼ばれる
/709ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加