見殺し

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それからは、どこをどう走ったかわからないが、気がつくと赴任先の方向に針路を合わせていた 彼は本線に戻って走りつづけた 針路の修正を出来たと言え、随分あっちこっちを走ったようだ ガソリンのメーターがだいぶ下がり時間も経っていた きがつくとガラケーの受信サインが光っていた みると気がつかない間に五軒も受信が入っていた いずれも妻からの受信であった 彼は慌てて返信をしようとして取りやめた これでは妻はかなり怒っているだろう 妻はかなり気の強い女だ 見た目は大人しく外面はいいが 少林寺の有段者でもあるから礼儀にも厳しい 何回も電話を無視されてかなり切れてるはずだ 電話を掛けるのは、少し時間をおいて気持ちを鎮めさせた方がいい 彼は返信を止めた 今電話すれば絶対口喧嘩になるのは、わかっているからだ それでなくても気分がむしゃくしゃしているのに 彼は気を紛らわすようにほんの少しアクセルをふかした しかし時間が経つに連れ、急に心配になって来た というのは連絡がつながらないと妻は留守電に入れて来たりメールを打って来たりするからだ 『それをしてこないのは何故だ?』
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