見殺し

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気がつくと彼が勤める支店の近くに来ていた。 彼は車を止めて支店の方に歩いて来た そして彼は支店の前に立ちどまった。 改めて彼は今の職場を見上げた 築三十年は立ってるだろう 軽鉄筋コンクリートの壁はあちこちがひび割れて赤茶けた鉄鋼さえ見えている 三回建てだが二階に毛が生えたほど低い 会社全体の中では、地方の出張所的位置づけである しかしここは日本中にある社の百を超える支社支店営業所の中でも特別な意味を持つ 何故ならここは始まりの地だからだ 昭和の終わりに、ほんの少し間がある頃、昭和五十年ぐらい、まだパソコンと言う言葉さえない頃、創業者がわずかな仲間と共に、ここに会社を旗揚げしたのだ しかしそれにもかかわらず、社での、この出張所の評価はまちまちだ ある者は登竜門と言い、ある者はサルガッソー、またバミューダトライアングルと言う。
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