見殺し

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(失踪したものが数人いるせいだ) しかし幹部になって出世してる人間は、必ずここで管理職を経験する この出張所は社で、昔あった座敷わらしの住む家的位置づけであった。 だから、この出張所への移動辞令が出た時は彼は小躍りして喜んだし、同僚達は羨ましがった。 が、実際赴任してみると、やる仕事と言ったら旗揚げからのお得意様と呼ばれる商店主達や中小企業の管理と、近くにある支店からの下請け仕事ぐらいしかないのである 社長としては幹部になる社員に対して創業時の苦労を分かちあって貰いたいと言う親心なのだろうが、社員からしてみれば苦労知らずの社員に対しての嫌がらせと取る者も多い(特に有名国立大学工学部出身のエリートエンジニアは、周囲の期待と仕事の単調さとの板挟みにあって失踪する者がかなり多かったため、いつの間にかサルガッソーとかバミューダトライアングルとかと言う呼び名がついてしまったのである) 彼はいくら会社の近くに来たからと言って、わざわざ立ち寄った自分に自嘲した 『これじゃあまるで昭和のもーれつ々サラリーマンじゃないか』 その途端昨日妻と言い合いをした時、妻が売り言葉買い言葉で、この言葉を叫んだ事を思い出した。
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