ストーカー

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彼は返事に困った もう唐沢と会う理由がないのだ それだけでなく、あの現場にノコノコ顔を出したくない 「いや、それは」 「そうですよね、私あのままケンカ別れしたくなくて でも、虫のいい話ですよね じゃあいいです お世話になりました」 その瞬間彼は急に後悔を感じた もう一度会って協力に礼を言うべきではないだろうか しかしそれは、言い訳だった 本音はこのまま愛実と切れたくなかった。 彼は追いすがるように言った 「待って」 「はい」 「落ち着いて」 「私落ち着いてますけど」 「とっとにかく一度話し合おう」 場違いの田中の言葉の羅列に愛実の方が少し面食らった 「じゃあいつものところで待ってます」 「えっいつものところって」 「二人が出会った場所です じゃあ待ってます 早く来てね」 「おい、急にいわれて」 愛実は電話をさっさと切ってしまった 「おい、」 田中は急いで愛実に電話をかけようとしたが着信履歴を見て諦めた 「くそ、いい年して若い娘に振り回されどうしじゃないか」 彼は愛実に怒りを覚えたが憎む気持ちにはなれなかった
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