見殺し

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それにしても昭和の終わりに生まれた妻が何故この言葉を知ってるのだろう? 彼は赤塚不二夫のファンで作品の初期の物も知っているせいだが、しかし妻は言った 「今どきモーレツ社員は流行らないわ」 今考えるとそっちの方が気になるのだが、その時の二人のやりとりはこうだった 「流行らないとは、どう意味だ 俺は流行で仕事してるんじゃないぞ」 「そうね流行に乗れるならもっとトントン拍子でしょうね 島流しにもならず」 妻の事を考えると再び苛立ちが彼を襲ったが、それでも彼は気持ちを抑えた 『島流しか、確かに言い得て妙かもしれない しかしその島流しももうすぐ放免になる』 その事を考えると彼は気持ちがウキウキする 妻子のもとに堂々と帰れる それほど愛妻家ではない人間なら、うるさいだけの妻が何故そんなにいいのか疑問に思うかもしれない しかし彼は妻や娘を愛しているのだから仕方ない 好きだとか愛してると言う感情は理屈ではないのだ それに夫が妻や娘を愛して何故悪いんだ
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