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彼は語りかける言葉もなかった
強大な権力を持ちながら、世間体とか、嫌それを超える何かに阻まれてがんじがらめになっている、この女性を軽蔑する事はたやすい
しかしこの老女には、もっとそれを超える深い悩みがあるように思えた
孫娘を見捨てざるをえないほどの
彼は黙って置いてあったチャッカマンでついてない線香に火をつけた
北条夫人は言った
「どうもありがとう
良かったら、もう一カ所付き合って下さいますか
あなたの知らない人ですが」
彼は洞口の事を言ってるのだと思った
『この人も鬼ではない』
その時感じた北条夫人に対する親しみが再び彼を大胆にした。
彼は心の中で疑問になっていた事を尋ねてみたくなったのだ
すぐ聞きたい事だったが真実を言うと、これまでの努力が無駄になってしまうので、彼は嘘を取り混ぜた
「実はおわかりになったら教えて欲しい事があるんです」
「なんでしょうか
聞いてみないと」
「お孫さんを尋ねて若い女性の方が最近いらっしゃったんです、綾さんのご友人の方だそうですが
お伝えしようと思ったんですが多忙だったので」
「孫娘の友達は多少存じてますが、おかしいわね、私の連絡先も知ってるはずだけど連絡も来ないし
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