見殺し

30/62
前へ
/709ページ
次へ
久しぶりの本社出社にウキウキしていたのか、普段の彼では考えられないリアクションをした 彼は玄関ホールに入ると受付を済ませ横のエスカレーターに乗った 東京駅なみのエスカレーターは、もちろん一カ所に下りと登りを備えている 彼は下りのエレベーターに見知ったOLのグループを見つけた この赤坂本社だけでも千人の人間が働いている とても全員の社員の顔は知らない まして本社を離れていると知り合いがやたらに懐かしく親しく感じた 彼は大きく手を降って声をかけた 「久しぶり」 OL達は彼を見ると、少し驚いた顔をして、それでも愛想笑いをした。 彼はます気持ちが高ぶる事を感じた そのためにすれ違って離れて行くOLの一人が残した言葉、「何にも知らないで、いい気なもんね」と言う言葉を聞き逃してしまった 人事部のあるフロアーは長い廊下と少ないオフィスによって出来ている 人事と言う機密性の高い仕事のせいもあるが、それにしても自社ビルだからこそ出来る贅沢なフロアーだ 彼は長い廊下を人事部に向かって歩いた 突然OLが声をかけた 「田中耕三さんですね」 見知らぬ女性だった 「はい」 「申し訳ありません こちらではなくて室長補佐の所へ行って下さい。
/709ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加