見殺し

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考えてみればそれは仕方ない事だろう 手柄は全て彼に奪われたような物だからだ 彼を出世させるために頑張ったような物だ 彼はかなり良心が痛んだが、もっと辛い思いをしたので耐えられる自信があった あのリストラ地獄の時 しかし今は嬉しさで、そんな事を考える気にもなれなかった 彼は自分で自分に御褒美を与えようと飲み屋を目指した しかし途中で足を止めた。 あの飲み屋は鬼門だ またトラブルに巻き込まれるかもしれない いずれにしても社長が訪れるかもしれない場所は避けるのが賢明だ。 彼はポケットを探って見た 所長からとスタッフからの二枚の封筒、餞別だ 開けてみると所長からの餞別が三万、合わせると十万近くになる これでタクシーと飲み代につかわして貰おう 彼はタクシーを捕まえた どちらまでと訪ねる運転手に彼は適当に走ってくれと言った ふざけたオーダーだが酔っ払い相手が多いタクシーの運転手は手慣れた物だった しかし彼も気まぐれで走らそうと思ったわけではない 一つは、この社長のホームグランド的な場所から離れる事だった そしてもう一つはタクシーを走らせて車窓から飲み屋を物色し、どこかを
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