見殺し

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ドアを指差し怒った 「本当に申し訳ない ごめんなさい」 彼はこめつきバッタのようにペコペコ運転手に頭を下げて、恐る恐るポケットから所長からの餞別を出しそのまま渡した 「三万入ってます 料金と残りはクリーニング代と言う事で」 運転手は分捕るよう封筒を取り中身を確かめた 運転手は言った 「領収書切る?」 「めっそうも」 途中から吐き気がまた彼を襲った。 彼はドアを開けて貰い、あぜ道に出て吐瀉を続けた 身体の中の吐瀉物を全て出して、タクシーに戻ろうとするとタクシーは影も形もなかった。 彼は苦虫を噛んだような顔で言った 「金は後回しにするんだった」 彼はそしてまわりを見た 夜半方から夜にかけての薄暗い時間、まだ辺りの状況は夏のため確認出来る筈だったが、ほとんどわからなかった 通常の道にある街灯があまりなかったからだ わかったのは家屋や団地のシルエットがあちこちに見られる事から、住宅地である事ぐらいだ 彼は自分のスーツに飛んだゲロの飛沫に気がついた。 そして運転手が放り投げたハンカチを拾った ハンカチにも吐瀉物がついていて使えそうもなかった。
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