見殺し

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彼は少し鼻白んだが、それでも合わせた 「そうですよね、失礼いたしました」 彼は名刺をしまった 男は笑いながら言った 「機嫌をそこねましたか」 「いえ、それよりお名前と住所を教えていただけませんでしょうか」 「名前と住所、何で?」 「お世話になったし、散財させてしまいましたし、改めてご挨拶に伺おうと思いまして」 「なんか義理堅い人だな」 男は感じいったような顔をしてポケットから缶ビールを出した 「ちょっと付き合って下さい それで貸し借りチャラだ」 彼は早く帰りたかったが、義理があったので素直に応じた もっともこの男に何か癒やされるような魅力を感じていたのも応じた理由の一つだった 「じゃあいただきます」 彼は温いビールを口に含んだ 男は酒の自販機でビールを買った。 二人は並んでビールをちびりちびりはじめた 男は彼が考えた以上に無口だった 彼は場が保てなくて聞いた 「この近くの方ですか」 「いや、実は昔住んでた所なんですよ 実は私、学生結婚、それも駆け落ちでしてね」 無口だと思ったら、急に今あったばかりのアカの他人に自分のプライベートを語り始めるとは
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