見殺し

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言った 「しかし私は 自分の先祖を何度も憎み否呪った事さえあります」 その言葉を聞いて彼はしばらく口が利けなかった それを見て男は調子に乗ってしまった事に気がついた 男は慌てて謝った 「なんだろう あは、すいませんあなたには関係ない話だ」 彼はその場を逃れようと腕時計を見た 「すいません、約束があって、」 「タクシーをお捕まえになるなら、」 男はその場所から五百メートルほど離れた東西に伸びる土手のシルエットを指差した 「あの土手の上を流してるタクシーを捕まえなさい それ以外のタクシーは、遠距離を走りません あっ良かったら方向しだいで私の車に乗りませんか」 彼は大きく手を振った 「とんでもない、お気持ちだけで」 男は残念そうに言った 「そうですか それから土手の向こう側には絶対行かないように」 「何か危険なんですか」 「いや、何もない所で地元の人間でもわからなくなっちゃうんです」 彼は丁寧にお辞儀をして、その場を離れた かくして自動販売機のライトに照らされながらの男二人の立ち話は終わった 彼は男が最後に言った言葉「袖すり合うも他生の縁と
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