見殺し

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反対側に行けるトンネルは見渡した所ないようだった 彼は土手を越える事を試みた しかし無理だった 『警察が早く来なければ、殺されてしまうかもしれない まるで薬をやってるような異常さだった もう駄目だ 出世どころの話じゃない 助けに行かなければ』 彼は走って引き返した 現場へ着くと、若者は既にいなかった しかしそれ以上に彼の心を恐怖に落とし入れたのは男がピクリとも動いていない事だった。 彼は立ちすくんでしまった。 彼は近づいて様子を見ようとした その時男少し身体を起こし血まみれの顔でこちらを見て言った 「警察~呼んで」 彼は腰を抜かしてしまった 「すいません、来ません」 「警察~」 そして男はガクッと動かなくなった 彼はあまりの恐怖にしばらく動けなかった 彼は譫言のように言った 「何とか救急車を 早くしなければ」 彼はまたケータイを出した そして無造作にポケットがしまった 「そうだ、この人のケータイを」 すると突然男が這ってきた 正気と思えない震えた声で男は言った 「娘に会いたい なんで俺ばかりこうなんだ」
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