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彼は思わず言いそうになってしまった
『今、あなたの前に座っているのは義の人なんて、とんでもない、己の保身のため人の命を踏みにじった人間の屑なんですよ』
そう言えたらどんなに気が楽になるだろう
どんなに肩の荷が降りるだろうと彼は思っていたが、もちろんそんな事できるわけない
彼は会長が再び二年前の武勇伝に話題を戻さないように、何か話題を見つけなければならなかった
しかしその部屋には話題になりそうなめぼしい物は何一つなかった
彼は言った
「すいません、トイレ借りられますか」
「あっ、どうぞ」
彼は部屋を出て廊下を歩きながら何か話題になるものはないかとさがした。
すると彼は仏間の戸の隙間から仏壇が見えるのがわかった
そしてその仏壇に、どうみても特別な祝いの品が置いてあるのを見つけた
どうやら祝い事のようだ
これはうまいタイミングだと彼は思った
お祝いをゆわれて嫌な気持ちの人間などいない
彼は部屋に戻った
「ありがとうございました」
会長は言った
「早かったね」
「はい、ところで
何かお祝い事があったんでしょうか」
「なんで?」
「はい、仏間の戸が少し開いてまして」
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