プロローグ

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 海の中に、沈んでいく。  見知らぬ子供を抱えて。  心は驚くぐらい、落ち着いているのに……もうすぐ死ぬんだと私は思った。  頭の中に大好きな彼の顔が浮かぶ。  彼とは……婚約したばかりだった。 「アキ!!」  海に入る前に聞いた、彼の悲鳴とも呼べる声が、頭の中に蘇る。 「アキ」  次に駆け巡るのは、彼の優しい笑顔だった。  もう会えなくなるなんて、嫌だよ……。そう何度も思って、何度も思って思い出した。  強く思えば会いたい人に会いにいける、 ログインパスワードを。  もうすぐ私はこの海に飲み込まれたまま死ぬんだ。  これが、最後のチャンスなら。  心の中に、強く何度も唱えた。  11141。  11141。  11141。 『会いたい。今、私の婚約者である彼に』
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