プロローグ

4/4
前へ
/115ページ
次へ
「アキ……良かった……」  けんとは寝ている私を抱き締める。  気づけば私は、海に飛び込む前の場所に戻っていた。 「け……んと?」  全身がびしょ濡れではあるけれど、私は生きてるようだ。   虚ろな意識のまま、そういえばあの子は……と、目を動かす。  体力がなくて起き上がれず、その状態のまま少し辺りを見回してみる。 「大丈夫。お前が助けたあの子も無事だよ」  けんとが優しく目を合わせて私の心情を察してくれた。  けんとからそれを聞いて私は安心した。 「アキが目を覚ましてくれて本当に良かった……!」  けんとは少し泣きそうだ。  それを見ていると、心の底から安堵して私も泣けてくる。 「でも……どうなってるんだ?」 「え?」 「気づいたら、いたんだ」 「……いた?」 「海に沈んでいったはずのアキが気づいたら……隣にいた」  そう言われたとき、私は手のひらに何かを握っていることに気づいた。  ゆっくり開いてみると、そこにちいさな、鍵があった。そして一瞬流れた風で、砂のように消えていく。  私はその時に分かった。  ログインパスワード。  彼のもとに連れてってくれて、ありがとう。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加