第1章

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本来この曲は甘いラブソングだが、アキの弾き方は違っていた。 熱く情熱的で直に語りかけてくる。 『お願い。俺の気持ちわかって』 そんな感情が伝わってくる。 言葉にするのは下手だけど気持ちを曲に乗せるから。だから感じ取って欲しいのだと。 意外なほど魅力的なリオの歌声のお陰で、アキは自分の気持ちを余すことなく伝えられた気がした。 それは曲を弾き終えて見上げたとき目が合った正司の顔がとても優しそうに微笑んでいたから、それだけで満足できた。 「あっ…しょう…じ…さ…? 」 その夜の営業時間が終わり店を片したアキは控え室でタキシードをクリーニングに出す準備をしていた。 するとそこに珍しく正司がやってきて、これまた珍しくいきなり唇を奪われた。 「アキ…アキ…」 「んっ…ぅ…ぁ…」 とまらないキスの嵐。 壁に縫いとめられていた両腕はいつしか開放され、アキの両頬に。まるで宝物を抱くように包んでいた。 「う…んっ…しょ…じ…さ」 段々アキの声に甘みが増してくる。 「アキ…好きだよ…」 「ん…俺も…」 太ももから撫で上げてくる手の平の感触に、中心がじぃんと熱くなるのを感じた。 「だめ…しょうじさ」 「どうして? 」 「ここ…お店…」 「そう。僕とキミの店。何か問題でも? 」 アキが最初に言われたこの店でのルール。 店の中では。 喧嘩しない 金の貸し借りをしない ヤらない 言われて数日で約束を破ってしまい、アキの人生に新たなドラマが始まったのだが、それはもう遠い昔の事のようだった。 「もしかして…またアイツを思い出してるのかな? 」 「ちっちがう」 「嘘が下手だね、アキ、それとも僕を妬かせたいのかな」 「そんなんじゃない」 「なら。どんななの? 」 唇が触れ合うほど近くで囁かれた。身長がおなじくらいの恋人は美しい顔で色気たっぷりにみつめてくる。 「俺の気持ち、…ピアノで…通じなかっ…た? 」 「通じたから…この僕が…ルール違反してるんだよ…アキ」 キスしながらの会話もここまで。 正司が本気のキスを仕掛けてきてアキの意識がクラリと飛ぶ。 「おっと」 アキの膝がかくんと抜けて咄嗟に正司が支えてやった。アキは正司のこのキスに弱く、すぐクラクラしてしまうのだ。まぁ百戦錬磨の正司のテクに太刀打ちできるものなど数えるほどだけだろう。 「嬉しかったよ。アキ。ありがとう、最高のプレゼントだ」
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