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ジャズと客の話し声に、時折混ざるシェーカーの振られる音。
この店の喧騒はいつもなら心地よく聞こえてくるのに、今はまったく入ってこない。
ワイングラスを弄っていた手が止まり、バクバクと心臓が動きを速める。
俯いたまま、気持ちを落ち着かせたくて深く息を吸い込んだ。
「ナオ君…?」
紗耶香さんの問いかけに顔を上げて、まっすぐな視線を受け止める。
静かな、黒い瞳。
初めて会った瞬間から、この瞳に捕らわれた。
潔よいほどにまっすぐ。
紗耶香さんはいつも凛として前を向いてる。
その姿が好きだ。
いつも傍らで見守っていたいと思う。
だから…。
「俺、5月になったらフランスに行く。
だから…
…俺に付いて来てくれませんか?」
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