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『いちゃつくなら隅に行け』
なんて言いながら、カウンターから離れたテーブル席をリザーブしてくれていたのは正直有り難かった。
小さめのテーブルに、野崎くんお薦めのロゼとマスターが腕を奮った料理が並ぶ。
トマトソースのパスタとイベリコ豚の生ハムとサラダ。
なんてことないメニューだけど、彩りよく盛られた料理は見た目も味も抜群だ。
『きっと昼間のランチの残り物だ』なんて言いながらも、出来たての温かさに紗耶香さんは嬉しそうに笑っていた。
食事をしながらずっと聞いてみたかったことを口にした。
「マスターと紗耶香さんっていつからの友達なの?」
「高校よ。
私、高校は祥徳学園なのよ。
青司くんはそこの後輩。まあ、彼は幼稚舎から通ってたお坊ちゃまだけどね」
「へぇ。それにしても随分仲良いよね」
「ふふ。今まで聞かなかったのに、今更気になるの?」
「今まで聞くタイミングがなかった」
「ただの腐れ縁よ。
それに彼には、ずーっと想っている大切な人がいるからね。
ナオ君が心配するような色っぽい何かはありません。」
「…別に心配してないよ」
探るような発言をしたことが恥ずかしくて、紗耶香さんを見れずにワイングラスの小さな泡を目で追った。
プツプツと小さな音を鳴らしながら爆ぜる気泡は、優しいピンク色の液体の中で思いの外爽やかな香りを放っていた。
粗方の食事が終わり、ロゼが重厚感ある赤ワインに変わった頃。
「…ねえ、話って何?」
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