第一章 始まりの森

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「だ、誰だお前は!?」 「ただのしがない旅人さ。道を訊ねようと思えばそれが戦闘中の軍隊でどうしたものかと思ったが、結局はこうして声を掛けただけだ」 イクスは地面へと降り立つと、優雅に礼をして百人隊長へと説明をするが、全員が短剣に手を掛けたまま警戒はしている それもその筈、イクスの腰には二本の銃剣が吊るされたままになっているからだ 「ならさっさと消えろ。俺達はお前みたいな女を相手にしてる暇はないんだ。ぐずぐずしてると騎士団が戻って来ちまう」 「あ?今何て言った?俺が女?馬鹿を言うな、俺は男だ」 普段は空野空としての姿を取っていたから間違われる事はなかったが、今はイクスとしての姿を女として間違われ、それがイクスの逆鱗に触れたらしい そこですぐに手を出さないあたりは大人なのだが、一瞬だけ殺気を放った事で余計に相手を警戒させる事となってしまった 中には手を添えるだけだった短剣を抜いた者も居た事で、イクスは小さく舌打ちをする 「チッ、出来れば事を荒立てたくなかったんだが、仕方ないか。状況的にアンタ等が悪者みたいだし、仕方ないからそこの子に味方するとしよう」 一瞬で銃剣を抜いたイクスはまず百人隊長である男から倒す事にしたらしく、銃剣の銃身部分を使って後頭部を殴打した 死んではいないが、それでも鈍器で後頭部を殴られた百人隊長は地面に倒れ伏すと、それを合図に他の兵士達も短剣を抜き、或いは弓に矢をつがえる それぞれがイクスを倒そうと向かってくる中、イクスは全体を見て指揮を引き継いだであろう男を魔力弾で撃つ これまた気絶だけで済ませたのだが、銃という武器を見た事がない兵士達にとっては、その一撃は正体不明の攻撃に思えただろう しかもイクスが殺気を込めながら周囲を見回し、銃口をゆっくりと動かしているのだから並みの恐怖ではない筈だ 「さあ、次は誰の番だ?」 「クッ、撤収!撤収!!」 未知の武器、そして圧倒的に数で不利な状況にも関わらず冷静であるイクスを警戒した兵士達は倒れた指揮官二人を抱えると一目散に逃げだした これは決してイクスに恐れをなして逃げただけではなく、背後から十騎程に減った騎士団が駆けつけてきた事も関係している 突如として乱入したイクスによって、この場の戦いは辛くもフィリア姫側が勝利したといえるであろう
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