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街並みが凄まじい速さで眼前を過ぎ去っていく。
長いトンネルを抜け現れた鮮やかな緑に、希玖(きく)の目は奪われた。
希玖は座席に座ったままちょっと足を組みかえると、窓の下の幅の狭い縁に肘をつき、身を乗り出すようにして外の景色を眺めた。
新緑の田園地帯の向こうには、色とりどりの屋根を乗せた無数の家々。
それらは通りすぎる度に日の光をきらきらと反射して宝石のように輝いた。
精巧に作られた小さな模型みたいだ。
何度も見た景色であるにもかかわらず、希玖はうっとりと見とれてしまった。
時速200キロもの速さで走る新幹線の中からは、どんな森も田畑も家々も、ちっぽけで薄っぺらく作られた玩具のように見える。
しかし、あの街並みを形作る家々の一つ一つにはどれも人が住んでいて、窓越しには見えないそれぞれの営みを送っている。
そう思うと、希玖の胸には不思議な熱さがこみ上げた。
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