ミニチュアモデルの恍惚

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 しかし、それがただの思い込みであると気付くまでに、そう時間はかからなかった。  交差する何本もの大通り。その裏には一歩入ると抜け出せなくなりそうな入り組んだ狭い路地。  希玖の地元では到底見かけられない高層ビルは、均一に作られたかのようにどれも似通っていた。  目印であるはずの建物は、他のビルに紛れ、もはや目印の意味を成していなかった。  一歩足を踏み出すだけで、おびただしい数の情報が希玖の目に飛び込んでくる。  それでも何とかして進もうとしたが、少し進んでは地図を見て、戻り、また別の道を進んで……そうしているうちに、自分が今どこにいるのか、そしてどこへ進もうとしているのすら分からなくなってしまった。  道を聞こうにも人々は皆早足で希玖の前を過ぎ去ってしまう。  通りざまに耳に入る彼らの話す言葉は、希玖の知っている言葉とは違い、まるで異国の言葉のように思えた。  希玖はすっかり途方に暮れた。  歩き回って体は疲れ切り、下ろしたての靴は足に合わなかったようで窮屈なつま先がきりきり痛む。  この異国のような街でもう一歩も動けず、歩道の端でへたり込んでしまった、その時だった。 「どうしました?道にでも、迷いましたか?」
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