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背は希玖の頭一つ半くらい高く、痩せていた。
骨っぽい、という言葉が希玖の頭にぽつりと浮かんだ。
痩せすぎて骨が浮き出ているのではない。筋肉質で体格がいい、という訳でもない。
しかし彼の体つきは、大きな岩山を思わせた。
ごつごつと角が立った岩山。
近付く者を拒絶する、冷たい無機物。
しかし、一度その顔に微笑みを浮かべると、そんな岩のような堅さは微塵もなくて、見ているだけで気持ちが温かくなるような穏やかさだけが残った。
角砂糖をぽとりとコーヒーに落としてスプーンでかき混ぜる。
その手つきが、なぜだかとても綺麗だと思った。
あの手で触れられたら、どんな心地がするのだろう。
そう思った瞬間、希玖の心は桂木にもはや言いようもなく惹かれてしまっていた。
帰りたくない、もう少し……希玖が独り言のように口からぽろりとこぼした言葉を、桂木はあっさりと受け入れた。
希玖はその晩、泊まる予定だったホテルをキャンセルし、桂木の家へと向かった。
桂木は、彼女にとって初めての男となった。
それ以来、毎月のように東京を訪れる事は彼女の習慣となったのだ。
しかし彼との逢瀬には全くと言っていいほど現実感が無い。
やはり、考えはそこに帰ってきてしまう。
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